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△▼ 中国経済最前線−特集ニュース版− 《第2号》 1999/06/30 ▼△
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△▼ http://www.geocities.co.jp/WallStreet/9060/ ▼△
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《第2号》 ドイツ企業の失敗事例に学ぶ
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INDEX ---------------------------
◎《第2号》本文
◆前書き
◆市場への過大な期待、調査・研究の欠如
◆人材活用の不適格、現地化の遅れ、結果的に市場を無視した販売
◆後書き
◎《第1号》で掲載した「IP電話」の追加情報
◆中国吉通が全面的な営業を開始 〜スーパーでも特設窓口を開設〜
◎次回の予告
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《第2号》本文
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◆前書き
先日、「中国熱が急速に冷める独企業、進出企業の大半が赤字」などと題し
て、日本の一部の新聞紙上でも、ドイツ企業の対中投資の失敗を取り上げて
いた。新聞報道によれば、「法律がコロコロと変わる」「官僚社会について
行けないゆけない」などと中国の投資環境の悪さだけを全面的に指摘してい
た。また、一部の進出企業では、「人口12億人を超える巨大市場への期待
は過大だった。」「中国人はビジネスの基本を知らない」「我慢も限界にき
た」といった不満や怒りが噴出し、撤退する企業も出てきた。
中国に進出しているドイツ企業1,300社弱の大半が赤字を出しており、
香港を除く中国への直接投資額は、1997年の15億9,000万マルク
(約1,070億円)をピークに、1998年は8億9,000万マルクに
まで落ち込んだという。
「法律がコロコロと変わる」点については、確かに否定できない事実。比較
的インパクトの大きい例としては、輸出増値税(本誌HPのバックナンバー
参照http://www.geocities.co.jp/WallStreet/9060/before-back2.html)の
突然の導入。そして、今年10月1日からの「税関対企業実施分類弁法」と
関連通達【注1】の正式施行などが挙げられるが、通達などを含めた細かな
事を挙げれば、キリがない。
【注1】「税関対企業実施分類弁法」と関連通達について
加工貿易企業をその優劣で4つに分類し、同時に輸入する貨物を3つに
分類することで、企業の管理を厳しくすると共に保証金制度なども取り
入れて輸入貨物も厳しく制限する規定。当初、6月1日から施行する予
定であったが、準備が遅れ10月1日からの施行となった。ただ、6月
頃からは輸入制限(輸入枠の割当て)が異常に厳しくなり、輸入原材料
の不足で生産停止に追い込まれる日系企業も出ている。
これを簡単に意訳すると、密輸や脱税の取締りを強化し、同時に輸入制
限を行うことで、輸出型企業の中国内部品調達率を高め、貿易黒字と外
貨準備高を高める政策。
制限貨物を輸入している企業などでは、保証金納付が義務づけられるこ
とになるため、輸出加工型の日系企業の多くで、資金繰りに多大な影響
を与えるとして、各地で大きな波紋を呼んでいる。(詳細は別途、本誌
の付録などで紹介する予定。)
また、行政についても確かに欠陥は多い。例えば、中国側の無計画或いは意
図的な要因で、「用地の立ち退き」を命じられる事も頻繁に起きている。中
国政府の勝手な都合だけで簡単に移転を要求されては、商店や飲食店などで
は特に死活問題となる。しかし、このような事が簡単に起こり得るのも中国。
ある種の天災として受け止めるしかなく、そのようなリスクを前提に対中ビ
ジネス戦略を立案する必要があるとも言える。つまり、立ち退きのリスクを
回避するために、保険に加入する事も1つの考え方で、そのような保険がな
ければ、保険会社に作ってもらうくらいの発想が必要ということだ。
そのようなことで、失敗の原因が全て「中国の体制」だけにあるかの如く批
判して片づけてしまっては、事の本質を見誤ってしまう恐れもある。また、
偏った事実だけを基に、日系企業が対中投資を断念することも筆者としては
忍びない。要するに制度的な欠陥や問題は、昨日、今日始まった事ではなく、
投資する前から判っている事である。それ故、別の視点から失敗の原因を検
証することは大いに価値がある。
以下の論点は、筆者が独自に取材したものではなく、中国の新聞・雑誌など
の情報を基に筆者が総合的に纏めたものである。そのため、中国側の意図的
な要素が含まれているかも知れないので、予めお断りしておきたい。
また、今回の内容を拝見した読者は、「そんな事は判っている。」といわれ
るかも知れない。しかし、言われてみれば判る事であるが、実際に経験して
みないと本当の意味では判らない事も沢山ある。特に、実際にドイツ企業が
過ちを犯している点は大いに参考となる。その意味で今回の事例は我々に改
めて教訓を与えてくれるのではないだろうか?
◆市場への過大な期待、調査・研究の欠如
中国市場に過大な期待を抱くドイツ企業の多くは、その厳格な民族性とは裏
腹に、先んじてシェア確保を急ぐあまり、無謀と思えるような投資をいとも
簡単に行っていまうという。事前に詳細の調査・研究もなく・・?
いうまでもないが、中国の国土は日本の約26倍、人口は日本の約10倍。
しかし、中国のGDPは日本の約5分の1程度。1人当たりのGDPでは、
800ドル弱で、日本の約50分の1。中国で1人当たりのGDPが最も高
い上海市(省・直轄市では)でも、昨年3,400ドルに到達した程度。
近年来で急成長した中国とはいえ、国土が広大であるが故に、非効率になり
がちな市場に過大な期待を寄せることは、現時点では命取りになる。
液体結合器の領域で世界屈指の技術を誇るドイツメーカーは現在、全面的な
投資戦略の見直しを迫られている。同社は、数年前に合弁相手先の所在地と
いう理由だけで、「広東省雲浮地区の郁南県」に合弁会社を設立した。いう
までもなく、このような田舎では、交通が不便、情報社会からの隔離、人材
が絶対的に不足、ターゲット市場からほど遠い、などの問題点がある。
そのような土地に、簡単に数千万ドルの投資を行ったのだから、結果は歴然。
目標の販売量とはほど遠く、操業停止に追い込まれた。文化、言語、習慣の
違いなどによる「すれ違い」も重なって、中側との軋轢な増幅するばかり。
そのため、失敗の原因が全て中側にあるかの如く、同社は合弁を解消して独
資企業として再生を試みている。
実際問題として、中側のパートナーの能力や思想、取り組みにも大きな問題
があるかも知れない。が、それらの点も考慮して投資対象を選択すべきこと
は明らかだ。
ドイツで著名な調査会社の調査結果によれば、多くのドイツ企業は自己の主
観だけで、中国を「初歩的な市場」と捉え、ひと昔前の製品を市場に投入す
る。その結果、それら製品が中国市場で既に競争激化している事を後に知る。
その時点では時遅く、販売戦略の再考を余儀なくされる。そんな事例が数多
く存在するという。勿論、最新の製品を中国市場に投入すれば必ず売れるわ
けでもなく、また広大な中国では地域格差も考慮しなければならない。
さらに、ドイツ企業で対中投資に比較的成功している企業は、事前の調査期
間に21ヶ月ほど費やしているが、失敗している企業はおよそ15ヶ月程度
という結果も出ている。調査期間が長ければ良いというわけでもないが、様
々な角度で検証する事は、やはり重要といえそうだ。
かくして、ドイツ最大手で世界的にも著名な医薬品メーカーも、江蘇省常州
市で設立した合弁会社が昨年、中国で著名な国有医薬品メーカーに救いの手
を求めた。同合弁会社は、投資後の4年間で累積赤字が8,000万元にも
膨らんだ。96年は販売総額が3,000万元に達したが、販売費用がそれ
以上の4,000万元に膨らみ大幅な赤字。97年、98年も赤字を重ね、
最後は中国の国有企業の販売網を借りる必要性に迫られた。また、ドイツで
著名な日用化学品メーカーでも、売上高で米国のP&G、日本の花王などに
大きく引き離されている。
◆人材活用の不適格、現地化の遅れ、結果的に市場を無視した販売
端的に独企業の現地化は、米系企業だけでなく、日系企業のそれよりも遅れ
ているという。現地スタッフへの信任度が極めて低く、権限委譲は殆どなさ
れていないのが実状のようだ。加えて、ドイツ本社から派遣されてくる責任
者は、退職前のご老体か経験不足の若手。前者はサラリーマン家業の終着駅
となるため、創業意欲は殆どない。後者は本社での舵取り経験も殆どなく、
中国市場に対する知識もゼロに近い。
また、本社から派遣される責任者の任期は一般的に3年で、上述のような責
任者が派遣された場合は、1年目が適応期、2年目が調整期、3年目で帰国
となり、成果が表れる頃には任期切れになってしまう。さらに、ドイツ人の
気質として、前任の仕事を引き継ぐ事は少なく、後任の責任者はゼロからの
スタートを望む。そのため、事業の継続性が薄れるだけでなく、責任者の裁
量で中国人スタッフの人事にも直接大きな影響を与える。然るに、経験豊富
で優秀な人材の流失は後を絶たない。
これらは、我々日系企業にとっても耳の痛い話しであるが、誇り高いドイツ
人は自己の意見に固執するあまり、現地スタッフの言葉には殆ど耳を傾けな
いようだ。少なくともこの点は、日系企業以上に度を超している。
独企業の製品が世界的にも高い評価を受けていることは云うまでもない。が、
市場への適応能力に欠ければ、どんなに品質が良くても売れない。
中国でプラスチック加工設備の需要は年々増加している。そこに目を付けた
独プラスチック設備メーカーは、2,000万元を投じ、一流の生産設備を
導入して中国に進出した。ところが、1年間での販売実績は、わずか9台。
需要が急増している中国ではあるが、希望する価格帯は数十万元程度の簡易
設備。そこに、1台で100万元を超える設備を売り込もうとしても、売れ
るわけがない。同様に、独企業が華南地区で生産を始めた、高級ではあるが
高額のフォークリフトでも販売不振に悩まされている。
高額商品以外の問題もある。独企業の製品は大部分がドイツ人仕様のままで
市場に投入されており、「操作位置が高い」等という問題がある。アジア人
の身長を全く意識していないのか、品質がよければ「使い勝手」が悪くても
「売れる」と考えているのか判らないが、極めて初歩的なミスを犯している。
ドイツの製造業は一般的に「長期投資・長期回収型の生産」という特徴があ
る。そもそも、そのような形態の製造業が、中国で短期的に巨額な投資を行
い、短期的に回収しようとすること自体が間違っている。高額な生産設備と
割高な原材料が高コスト体質を生み、企業経営を圧迫する事は明らか。然る
に、多くの独企業が製品・市場を十分に認識した上で、製造・販売戦略を立
案するという初歩的な企業戦略さえ描かないまま、愚かとしか言えないよう
な対中投資を進めた事にも問題がありそうだ。
このように製品戦略・販売戦略が欠けた(間違った)場合でも、販売員の努
力だけで売れる場合もある。市場の秩序が未完全な中国では特に。しかし、
残念ながら殆どの独企業は、販売チャネルの構築にも失敗しているようだ。
前述の通り、多くの独企業では中国人スタッフへの信任が薄いため、経験豊
富で優秀な販売員が社内に育っていない。加えて、中国独特の商習慣である
「コミッション」などの「テーブルの下の交易」にも馴染めなく、独自の手
法が正しいと信じたまま疑わない。従って、合弁企業の場合、往々にして中
側企業との関係は悪化し、頻繁に軋轢が生じている。
それ故、販売員や販売代理店の販売意欲は薄れ、売上が伸びない。仮に売上
が伸びたとしても、広告・宣伝費などが膨らみ、総コストが売上高を遙かに
上回る結果となった。
これでは、商売にならない。
あらゆる局面で過ちを犯してしまった「独企業」、相手の悪い所だけを批判
する前に、自己を顧みる努力も必要ではないかと感じさせられる。
勿論、フォルクスワーゲン、シーメンスなど、中国で成功を収めている独企
業も存在しているため、全ての独企業が過ちを犯しているとはいわないが。
◆後書き
独企業の大部分は冒頭の通り、中国に対して不満・不信を膨らませ、一部で
は不満・不信を抱いたまま去っていった。中国の新聞でも、「中国が規範化
された市場であったら、独企業も成功していたかも知れない。」と結んでお
り、「テーブルの下の交易」がある事を認めつつも、それが良い事とは言っ
ていない。
独企業の失敗事例を聞いて、筆者は昨年末の友人の言葉を思い出した。
年末に子供を連れて帰郷した折り、久しぶりに学生時代の友人数名と酒を交
えた。その中の1人が私に、「洪水で大変だったみたいだな、お前の自宅は
大丈夫だったか?」と。その友人は私が「上海という都市」に住んでいる事
は知っていたが、中国の何処で洪水が発生し、上海が中国の何処にあるかま
では全く知る由もないし、興味もなかったようだ。
嘘のような話しに思われるかも知れないが、自分に関係無いことに対しては
普通、このようなものかも知れない。ただ、このような知識しか持ち合わせ
ていない者が、突如として異国での仕事を命じられたとしたら、成功する方
が奇跡と言える。
一般的に米企業或いは米国人は、事を始める前に、相手を徹底的に調査・研
究した上で、綿密な戦略を立て、詳細なマニュアルを作成して、実行する。
米国の強みは、そんな所にも表れているのではないだろうか?特に中国で生
活している筆者にとっては、米企業に学ぶ事は沢山あるように感じられる。
機会を見つけて、米企業の中国での成功事例と秘訣を検証してみたいと思う。
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《第1号》で掲載した「IP電話」の追加情報
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◆中国吉通が全面的な営業を開始 〜スーパーでも特設窓口を開設〜
6月中旬から、上海でも「中国吉通」のIP電話カードの正式販売が開始さ
れた。筆者は6月20日、上海の「古北地区」の大手スーパーマーケットで
額面100元のIP電話カードを購入する事ができた。販売員に詳細を聞い
てみると、同社での販売は自社の営業店だけでなく、スーパーやデパートな
どの数カ所でも仮設窓口(単にテーブルと椅子を並べただけ)を設けて営業
を始めたという。さらに、代理店での販売も実施しており、ホットラインに
電話すれば、自宅や会社まで届けてくれるサービスも始めていた。
ダイヤル方法や営業地域など、本誌《第1号》で紹介した内容と若干異なる
点もあるため、「中国吉通」の現時点での販売方式について、前回との相違
点のみ以下に整理しておいた。ご興味のある方は参照頂きたい。
注目すべき点としては、今回珍しく、特別に発行部数を制限している様子も
なく、また「売ってやる!」という従来の姿勢から「買って下さい。」とい
う謙虚な態度に変わっていたこと。こうなると、現存のISP業者のIP電
話は苦境を強いられる事は間違いなく、価格競争で通話料金の値下げに拍車
が掛かる事を期待したい。
ところで、音質の方はというと、実際に日本へ電話してみた感想としては、
本誌《第1号》で紹介したISP業者のIP電話に比べ、聞き取りやすく、
それほど大声を出さなくても相手に伝わるようで、使い勝手はまずまずと感
じられた。中国の都市部のデパートやスーパーなどで見掛けたら、是非購入
してみて頂きたい。情報化が進む中国の現状を肌で感じ取って頂ければ幸い
である。
《IP電話カードの種類》
・額面50元、100元、200元、500元の4種類。
(高額のカードを購入しても特に割り引きは無い。)
・カード裏面の一部を指で擦ると、「ユーザ番号」と「暗唱番号」
が見える。
《使用期限》
今回はあくまで試験運営との事で、今回販売されたカードの使用期限は、
来年の6月までという。
《現状の営業・販売地域》
北京、上海、広州、武漢、大連の5都市
《国際通話が可能な国・地域》
日本、欧米、アジアなどの主要32カ国
《ダイヤル方法》
1.接続番号の入力
・上海では、50624542/50624541/50624540の何れか。(暫定的)
・全国統一番号「17920」は近日中に運営開始となる。
2.アナウンスの言語選択(中国語が「1」、英語が「2」)
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4.暗唱番号を入力後、#を入力。
5.電話番号の入力(通常の国際電話と同等の入力方式)
00−国番号−市外局番−電話番号を入力後、#を入力。
★ 本誌の「《第1号》地裁判決で火がついたIP電話 その行方や?」に
関する内容は、ここをクリックして下さい。
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