▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼ △▼ 中国経済最前線−特集ニュース版− 1999/09/16 ▼△ ▼△ 《第6号−1》 (NO.12) (発行部数 2,237部) △▼ △▼ http://www1.neweb.ne.jp/wa/prc/ ▼△ ▼△ (バックナンバーの閲覧、ニュース閲覧、読者『掲示板』を用意。) △▼ △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△ ====================================================================== 《第6号−1》 労働訴訟が急増する中国、労使関係の再考も必須か ====================================================================== ------------------------------- INDEX -------------------------------- ◎《第6号》本文 ◆労働争議が急増、権利意識の向上に加え、雇用主にも問題ありか? ◆近年来で労働者の勝訴が急増、雇用主の法律軽視も浮き彫りに ◆近年増加してきた労働契約解除のトラブル、法的な解除条件とは ◆後書き ◎次回の予告 ---------------------------------------------------------------------- ********************* 《第6号》本文 (前編) ********************* ◆労働争議が急増、権利意識の向上に加え、雇用主にも問題ありか? ここ数年来、中国で労働争議が急増してきた。政府発表によれば、今年上半 期(1〜6月)に労働仲裁委員会が受理した労働仲裁案件は、前年同期比で 58%増の55,000件に達したという。 統計数字を見ても、92年には中国全土で8,150件にとどまっていた受 理件数(結審件数は7,861件)が、97年には71,524件(結審件 数は70,792件)に達し、9倍近くの伸びとなっている。上海市でも、 昨年は通年で2,970件であったのが、今年は上半期だけで既に2千件を 超えており、北京、広東省など沿海部の大都市でも同様に労働争議が多発し ているという。 都市部では、労働者、企業ともに数が多いため、件数では突出しているが、 増加率では内陸部も負けていないようである。今年上半期では、青海省、河 南省、山西省などで特に高く、前年同期比で2〜3倍に達しているという。 全般的には、給与や労働契約の解除に伴う補償金などに関するトラブルが増 加しており、会社の福利厚生などに関わる争議は減少しているようで、中国 政府が押し進めてきた一連の各種保険制度の改革は功を奏した結果となった。 今年、労働争議が急増した社会環境としては、一般的には景気低迷や国有企 業改革に伴う労働者のレイオフ(一時帰休)が急増したことに、労働者の権 利意識が向上したことも加わったとされている。が、雇用主による労働者へ の不当な扱いも、無視できない大きな問題といえそうだ。 先日、NHKのBS放送で、湖南省の国有企業の女性職員が会社から不当な 理由で解雇されたことなどを取り上げた番組を見た。その女性職員の言い分 では、総経理(男性)の性的要求(いわゆるセクハラ)を拒否したことで解 雇されたというが、労働仲裁機関では受け付けて貰えず却下された。そのた め、現在は訴訟の準備を進めていると言っていた。 真実は当事者でなければ判らないため、おそらく労働仲裁機関も証拠不足な どで受理を却下したものと思われる。訴訟となれば、この総経理も優秀な弁 護士を雇うことになる。まさか、「セクハラを拒否したから、解雇した。」 とは言えないだろう。 中国の地方都市では、法を遵守する意識は比較的薄く、男尊女卑の考え方も 都市部に比べれば根強く残っている。それ故、テレビを見ている限りでは、 この女性職員の言い分が正しいと思われるし、非常に可哀相に思える。しか し、決定的な証拠を集められなければ、全面勝訴は難しいかも知れない。 ただ、雇用主も、法に基づいた決定的な理由・証拠がなければ、簡単に従業 員を解雇することは出来ない。それ故、この総経理が決定的な解雇理由と証 拠を見つけ出すことも難しいかも知れない。後述するが、中国では労働者保 護のため、労働法に定められた条件・理由以外で、雇用主が独断で労働契約 を解除(解雇)することは出来なく、解雇には厳しい条件が課されている。 当然、外資系企業にも適用されているため、中国で事業を行う場合は、最低 限でも解雇条件は把握しておくこと必要があるといえる。 97年の労働仲裁案件の受理件数は71,524件となったが、そのうち、 外資系企業の割合は23,244件で、全体の32.5%に達した。この数 字を見る限り、外資系企業或いは日系企業でも他人事とは言えない状態とな ってきた。 また、外国企業の駐在員事務所などでは、中国人社員を直接雇用する事がで きないため、必ず人材派遣会社を通さなければならない。派遣会社を通じて 雇用する場合、社員と雇用側で労働契約は提携しないため、直接の労働関係 は成立せず、派遣会社と雇用主との労務契約(一般の経済契約)となる。 しかし、派遣会社と社員の労働契約は、派遣する企業との労務契約が満了し た時点で解除となる条件で契約している場合が多い。そのため、派遣会社経 由で社員を雇用しているケースでも、トラブルを回避するためには、直接雇 用と同様の考え方で対処する必要があると言える。 ◆近年来で労働者の勝訴が急増、雇用主の法律軽視も浮き彫りに 労働仲裁の結審結果について言えば、92年時点では企業側の全面勝訴が、 2,394件(結審総数の30.5%)に対して、労働者側の全面勝訴が、 2,114件(同26.9%)と、僅かながらに企業側がリードしていた。 (上記以外は双方の一部勝訴など) その後、企業側の全面勝訴率は94年に20%、97年に16.2%と下降 を続けているのに対して、労働者側の全面勝訴は94年に47.8%、97 年に56.6%と上昇を続けている。 統計結果から見ても明らかであるが、近年来で労働者側の全面勝訴が急増し てきた。上述の通り、労働者の法に対する意識の向上も大きく影響している と言えるが、企業側の法律に対する意識の低さも大きな要因といえそうだ。 およそ5年前に、「中華人民共和国労働法」が労働法典として正式に制定さ れて以来、労使関係のあり方も法律で明確に規定する方式となった。しかし、 多くの国有企業などでは旧来の慣習・規則が正しいものとし、法に基づく処 置を軽視する傾向が相変わらず続いているようだ。 中国の新聞論調でも労働問題を取り上げる事が多くなってきたが、大部分が 企業側の不当な処置に対する批判となっている。以下の事例紹介を見ても明 らかなように、意外なまでに雇用主による不当な扱いが行われている。 これでは敗訴しても当たり前であるが、それ程に法律意識が薄いという事実 も表している。もっとも、法律の専門家ではない一般の管理職などが、法律 の詳細を把握しているわけではないため、総務や法律担当部門が怠けている か、会社の都合に合わせて故意に違法行為を続けているとも言える。 私自身も4年ほど前から上海に在住し、最近は仕事上で法律を意識しなけれ ばならない立場にあるため、多少は法律知識が増えてきた。ただ、それまで は中国との貿易・ビジネスに関わっていたものの、当然ながら法律を細かく 把握する事も少なかった。その点を考えると、企業の管理職だけを責めるわ けにもいかない。 以下は上海の夕刊紙「新民晩報」に掲載されていた労働争議の事例であるが、 非常に象徴的な事例が4つほど掲載されていたので、抜粋を紹介しておきた い。労働者が敗訴した例や外資系の事例も紹介されているので、参考になる と思う。 【事例1】 数年前に上海と広東省の会社が共同出資で設立したホテルにおいて、最 近の経営状態は良好であった。共同経営契約や会社の定款・規定などに基 づくと、経営側は本来、1ヶ月分に相当する特別ボーナスを従業員に支払 わなければならなかった。ところが、経営者側はこれを履行しなかった。 これに不服を感じた従業員は経営側への反感を募らせ、通常業務にまで 影響するまでになった。そこで、経営側は通常業務に悪影響を与えたとし て、基本給の30%カットなどを決断した。絶えかねた従業員側は労働仲 裁機関に仲裁申請を行い、仲裁機関も従業員側を支持する裁決を下した。 しかし、経営側は同意せず、起訴することにしたが、法廷での調停で、 従業員側の意見が全面的に受け入れられ、経営側は1ヶ月のボーナスを支 払うことになった。 【事例2】 食品会社で働く趙氏は、突如としてアヒルの丸焼き等の総菜を調理・販 売する店舗で、生きているアヒルをさばく仕事を命じられた。立ち仕事が 長く、身体への影響を感じた趙は、職場の移動を申し出た。そこで、同店 舗の上司はプラスチック製の食品容器の清掃とトイレ掃除の仕事を命じた。 食品業界で長年働いた経験のある趙は、この仕事に対して「食品衛生法」 に適合していない事を知っていた。そのため、感染を防ぐために専門の作 業服の支給を上司に申し出た。これに対して上司は、不合理な要求として 拒否するとともに、1ヶ月の停職命令を下し、賃金支払いもカットした。 その後、趙は職場に復帰したものの、引き続き強硬な姿勢を変えなかっ たため、最後は解雇通告を受けた。会社側の通告では、上海市の「国営企 業規律違反職員の解雇実施弁法」に基づいた結果との説明であった。 そこで趙は、労働仲裁機関へ仲裁の申請したが却下されたため、起訴し た。一審の判決では趙の意見を全面的に受け入れる内容で、「食品容器な どの清掃については明らかに食品衛生法の違反。趙の一連の行為は、労働 規律違反には当たらない。」として、裁判所は会社側に解雇通達の撤回と 6,000元余りの給与支払いを命じた。また、最近の二審判決でも一審 を支持する判決となった。 【事例3】 劉氏は元々、天津に進出した外資系電機メーカーの上海分公司(下部組 織)の社員として入社し、同企業と無期限の労働契約を締結していた。と ころが、93年に天津側や外資側などが出資して、上海に新たに独立した 合弁会社を設立された。しかし新会社では、現有の全従業員と労働契約を 締結しないまま、全従業員を引き継いだ。 新会社成立後、据え付け部門のマネージャーとなった劉は、94年2月、 据え付け作業における品質問題などで、管理責任を問われることになった。 これに対して会社側は、「4日以内に辞表を提示すれば、4ヶ月分の給与 を保証し、新しい職場提供にも協力する。もし、辞表を提出しなければ、 会社は自動的に労働契約を終了する。」との通告を行った。 辞表提示に同意しなかった劉は、4日後に解雇を命じられた。その後、 労働仲裁機関に申請したが却下されたため起訴した。一審判決では、「企 業の職員は一律して労働契約制を実施しなればならない。同社は新会社を 設立後、元の上海分公司の社員を受け入れたが、この際、元の労働契約を は終了しておらず、また新たな労働契約も締結していない。従って、元の 労働契約は有効となる。さらに、劉を解雇するにあたって、工会(労働組 合)の意見も求めていないことも、違法行為にあたる。」として、解雇の 撤回を命じた。二審判決も一審を支持し、企業側は全面敗訴となった。 【事例4】 徐氏とその妻はともに再婚で、共に子供がいた。中国の規定によれば、 この夫婦が子供を産むことはできない。ところが、子供が欲しかった夫妻 は努力を続け、ついに徐の妻が妊娠した。過去に出産した経験がある事を 隠し通したことで、幸運にも病院での検査はくぐり抜けた。 この事実を知っていた徐の会社の同僚などは、再三のように徐に対して、 妻の中絶を勧めていた。しかし、数ヶ月後、徐の妻は出産した。 その直後、徐の会社は「国家計画出産政策(一人っ子政策)に重大に違 反した」として、解雇通告を行った。徐は労働仲裁機関にも仲裁を申請し たが、最終的に獲得したのは、3,300元の補償金だけであった。 さらに徐は起訴したが、一審、二審ともに会社側を支持する内容で、徐 は全面的に敗訴となった。 さて、上記の事例を簡単に解釈してみると、【事例1】と【事例2】は明ら かに契約或いは法律違反であるため、議論の余地はないと思われる。 【事例3】については、新会社で会社側と従業員間で労働契約が締結されて いなかったため、通常の解釈では1ヶ月単位での労働契約という事になる。 しかし、以前の会社の社員をそのまま受け継いだ経緯があるため、以前の労 働契約が有効との判決になったようだ。また、後述する労働法の第25条の (三)「厳重に職務を疎かにするか、自己の利益の為に不正を働くかして、 雇用主の利益に重大な損害を与えた場合。」に該当する行為とも、認定され なかったと思われる。 【事例4】については、後述する労働法の第25条の(四)「法による刑事 責任を追求された場合。」との条項の拡大解釈と思われるが、重大な違法行 為を犯した点では、責任を追求されても致し方ないと言える。 (つづく) ★ 後編はここをクリックして下さい。
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